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“Yamaha Design Masterworks ─「先進」の系譜─”、体験への誘い

株式会社ヤマハ デザイン研究所 所長 川田学、佐藤大造

3月5日(金)から24日(水)まで、ヤマハ株式会社デザイン研究所が主催する展覧会 “Yamaha Design Masterworks ─「先進」の系譜─”が開催されている。これまでヤマハが取り組んできた先進的な要素、音楽文化への貢献を軸に、楽器・音・映像のインスタレーションを展開。現在店頭では見られないものも含めた、新旧織り交ぜた楽器が並ぶ。ミュージックシーンにも大きな影響を与えた、ヤマハのプロダクトデザインを大いに「体験」できる展覧会だ。

楽器とは、人がいて初めて生きるもの

ヤマハ銀座スタジオに足を踏み入れると、テーブルのような外観を持つピアノと円形に配置されたベンチからなる作品『key between people』が目に飛び込んでくる。ピアノの演奏を見ながらプレーヤーに話しかけることも、もの思いにふけりながら遠巻きに眺めることもできる、自由な距離感。2008年、イタリア・ミラノで開催される世界最大規模の家具見本市で、デザインの祭典でもある「ミラノサローネ」に出品したこの作品は、プレイヤーとオーディエンスとのコミュニケーションをデザインした。展覧会全体が持つテーマのひとつ「人と楽器と音楽のかかわり」を、会場の中心で象徴する役割も担っている。

「楽器とは、人気(ひとけ)が入って初めて生きるもの。楽器を弾くことによって人と人が協調したり、その場の雰囲気が変わったりしますからね」

そう語るのは、展覧会の企画を中心になって進めてきたデザイン研究所のデザイナー、佐藤大造だ。楽器を中心にした展覧会は、どうしても楽器(モノ)だけの展示になりがちである。しかし前述のように、楽器とは人がいてはじめて生命が息づくものだ。そのことを踏まえ、プレイヤーの背景にある音楽性やミュージックカルチャーを含めて、楽器と人、デザイン、音楽環境との関係を楽しんでもらえる構成にした。

ヤマハの先進性を表す三つのコンセプト

会場中央に置かれたkey between peopleの周りには、「テクノロジー」「フォルム」「パフォーマンス」という3つのコンセプトに分けられた楽器群が配置されている。key between peopleの周りを回遊できるようなレイアウトだ。人々の生活に一番身近な鍵盤楽器にフォーカスすることで、その進化が音楽文化に関わってきたさまをわかりやすく表現している。

「ヤマハには、各時代における先進的なもの、時代を切り開く部分にチャレンジしてきたという挑戦の歴史があります。その“挑戦”であり“先進性”の部分に注目したときに、3つのテーマが浮かんできました」(佐藤)

「テクノロジー」エリアには、鍵盤のフタが回転して操作パネルになる『PS-6100』や、グランドピアノと同等のアクションを搭載する電気ピアノ『CP-70M』、フルデジタルFM音源を搭載した『DX7』などが並ぶ。独自のボディ構造や新たに開発した音源を用いるといった、ハードウェア面で挑戦した楽器たちだ。

「フォルム」エリアには、『MODUS F01』のようにインテリアのアクセントとしての側面を持つなど、楽器の新たな佇まいを提案した楽器たちがそろう。多くの自然楽器に共通する、積層した木の枠で本体を囲う手法で「楽器の原型」を表した『key as gift』をはじめとする楽器群は、長く使ってほしいとの想いを込めて素材を選び抜き、丁寧な仕上げをほどこした。

「パフォーマンス」エリアに置かれた楽器群は、まさに楽器と人との関係を表す。代表的なものが、オールインワンで立ったまま演奏できる『SHS-10 shoulkey』や、オーケストラとの共演と指揮を両立するため、鍵盤蓋が無く、透明な天板の『Opera Piano』。これらは、プレイスタイルやオーディエンスとの関係を変えてきた例だ。また、操作の流れを視覚化した『YS-200』やスケッチブック型キーボード『key for journey』のように、プレイする感覚やインターフェースそのものに変化を与えたものたちも共に並んでいる。

これらの楽器展示と共に空間を演出するのが、ビジュアルデザインスタジオWOWが手がける映像だ。特にkey between peopleでは、形の着想から立体が生まれてくるストーリーを象徴的なムービーで表現した。来場者がkey between peopleの鍵盤に触れる行為で画像のエフェクトが変化するという、インタラクティブな仕掛けも盛り込まれている。その他の楽器たちも、それぞれのデザイナーが想いをこめた着想の視点をガイド。また、作曲家の畑中正人氏によるオリジナルBGMは、ピアノによる音楽の断片と、海外デザイナーがヤマハデザインを解説する言葉の断片とで構成された実験的な作品で、プロダクトが置かれた空間を音で印象的に満たす。

「感動を共に創る」展覧会へようこそ

デザイン研究所所長の川田学は今回の展覧会を、ヤマハ楽器が持つ先駆性が生み出してきた新しいミュージックシーンや人と楽器の新しい関係を現物とイメージ映像と音をからめて「体験」してもらえる場にしたいと考えた。

「ヤマハのデザイナーが楽器にどんな想いを持ち、どんなシーンを提案してきたかを、楽器に触れたり映像を見たりしながら体験してほしい。展示を眺めてもらうだけでなく、来場された方も展覧会の場と共鳴することで“感動を共に創る”。そんな想いも込めて、“Masterpiece”でなく“Masterworks”というタイトルにしました」

これまで手がけてきた製品を展示するにあたっては、「歴史」や「伝統」という言葉もキーワードとして考えられた。しかし、伝統とは一瞬で作れるものではなく、後で振り返ったときにはじめて存在するもの。いまは伝統と呼ばれるものも、生まれた時代においては独創的なアイデアや技術革新であり、当時は異端児だったかもしれない。しかし、それらを採用してきた背景には、モノづくりをする側が“ブレない何か”を持っていたはずだ。伝統とは、その考えや哲学が脈々と続いてきたことの現れなのではないか。そう川田は考える。

「楽器はもともと西洋のクラフトとして造られ、鍵盤楽器だけでも約300年という長い歴史を持っています。日本のいちメーカーであるヤマハが、そこに持ち込んだプロダクトデザインという視点や、新しい技術への挑戦が、楽器と人との関係やミュージックシーンをどう変えてきたのか。そこにもぜひ注目してほしいですね」

時代ごとに取り組まれてきた挑戦が現代における伝統となり、いまもヤマハデザインの中に息づく。サブタイトルである「“先進”の系譜」に含まれる「先進」の文字には、そんな想いも込められている。

Yamaha Design Masterworks ─「先進」の系譜─

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