Ginza Music Concierge:Column
Ginza Music Concierge

古典的かつ斬新。能楽にも通じる、朗読とギターのセッション

俳優 佐野史郎/ギタリスト 山本恭司

俳優・佐野史郎さんが読み上げる言葉と、ギタリスト・山本恭司さんが響かせるギターの音色がスタジオの中で絡み合い、響き合う。島根県立松江南高校の同級生でバンド仲間だった2人が、出雲の地、松江に縁の深い小説家、小泉八雲の作品を取り上げ行った異色のセッション『小泉八雲の世界 vol.3 “雪女”』。2010年2月27日、ヤマハ銀座スタジオのこけらおとし公演として観客の熱気に包まれる中、ライブはスタートした。

八雲の世界が立体で迫りくる

会場が暗くなり、ステージがぼんやり照明に照らされる。シンセサイザーの音楽がフェイドインし、小鳥のさえずりが聞こえてきた。山本さんの『YAMAHA HR-Custom』が奏でるギターの音色とテーマ音楽は、どこか懐かしく牧歌的だ。その調べに載せて、佐野さんが言葉を紡ぎはじめた。

「春のひんやりした、雪を頂く富士の高嶺から風の波が運んでくる…」

小泉八雲のエッセイ『知られぬ日本の面影』に収録された『東洋の第一日目』冒頭。出雲国・松江に向かう情景からライブは始まった。『幽霊滝の伝説』、『ちんちん子袴』『因果ばなし』『雪女』の4篇からなる構成だ。

目を閉じると情景が浮かんでくるような、佐野さんの語りが心地よい。臨場感にあふれる語り口は、登場人物ひとりひとりの個性を物語るかのようだ。特に、化け物や化身に豹変した女性の声色と演技には面目躍如たるものがある。『幽霊滝の伝説』で化け物が主人公のお勝を呼ぶ声、『因果ばなし』での、化身となり側室に取り憑く正妻の断末魔などは、身体が凍り付きそうなこわばりを覚えた。そうかと思えば、武士姿の小人たちが姫の枕元に夜な夜な現れ踊り狂う『ちんちん子袴』では、小気味よい調子の歌を口ずさむ。「♪ちんちん子袴 夜も更け候~」の囃子は、佐野さんのオリジナルだ。

さまざまな色を持つ佐野さんの語りに、山本さんのギターが絡みつく。情景を表すサウンドのほか、雷鳴や太鼓、汽笛などの効果音もギターから生み出されていた。あらかじめ用意した曲や、滝の音などの音源を手元のフェーダーで操りつつ、場面や心情の変化を表すギターフレーズを語りに合わせて繰り出す。場面ごとに変化する照明と相まって、幻想的な小泉八雲の世界が立体的になって私たちに届けられた。

セッションの終わりは、前述の『知られぬ日本の面影』より、小泉八雲が赴任した中学の生徒に見送られながら、蒸気船で松江を離れる場面の描写で締めくくられた。

朗読とギターでも、 表現としては音楽のセッションと同じ

『小泉八雲の世界 vol.3 “雪女”』は、2人がセッションするシリーズの3回目。このセッションをライフワークとして捉え活動を続ける2人だが、どのようにしてステージを創り上げているのだろうか。

佐野:全体の構成は僕が考え、作品の解釈やニュアンスをト書きした台本を恭司に渡しています。基本的に音響部分は彼におまかせ。ラジオドラマに近い作りになるかな。

山本:台本のト書き、すごく面白いんですよ。原文に「何かが海からやってくる」という記述があるとすれば、「“何か”とはゴジラ。海から這い上がって迫ってきている感じ」って書いてあったり。

佐野:構成を考えていると頭の中に音が聞こえてくるんです。そのひらめきは絶対に逃したくない。「クリムゾンキングの“宮殿”みたいな、荘厳な音楽が鳴っている」という具合にト書きにして恭司に渡せば、ちゃんと音になって返ってくる。その構成台本をベースに2人でブラッシュアップしていきます。

山本:本番中に佐野の語り口を聴いて、「あ、ここでこの音絶対に入れたい!」とギターを鳴らすこともあるね。僕たちがやっていることは、あくまでもジャズと同じような「セッション」ですから。表現方法が“朗読とギター”なだけで、音楽的なことをやっているつもりです。

佐野:語りとギターのセッションは、スタイルとしては珍しいかもしれません。でも、何も新しいことじゃない。演技も音曲もパーツとして分かれていないという意味では、600年前に世阿弥が確立した「能楽」と同じです。僕は「2人だけのプログレバンド」とも呼んでいます(笑)。ステージに伝わる観客の集中力によって、声の調子、音量、演技も変わる。ギターのリフと同じですよ。互いの調子、客の反応を瞬時瞬時に判断しつづける1時間30分の音楽セッションなんです。

ライフワークとして続けていく 息の合ったステージ

ライブ後、トークショーが行われた。高校で隣同士の席だったという2人は、いまなおステージ上でも隣同士で今回のライブに取り組んでいる。高校時代の思い出話や、銀座八丁目の一帯が江戸幕府開府の折り出雲藩士によって埋め立てられ、江戸時代から昭和初期まで「出雲町」と呼ばれていたことにちなむ雑学、ステージ内容などについて、仲の良さを感じさせる息の合った会話でもりあがった。

話の流れから、ステージ後ろに用意していたアコースティックギター『YAMAHA LLX26c』(山本さん)と『YAMAHA LLX16』(佐野さん)で即興を披露することに。高校時代に共に弾いたというジミ・ヘンドリクス『Purple Haze』だ。この成り行きに佐野さんはとまどいを隠せなかったようだが、きわめて貴重なギターセッションに、会場は大いに沸いた。最後は八雲が好きだったというアイルランド民謡『BELIEVE ME, IF ALL THOSE ENDEARING YOUNG CHARMS』を2人で演奏し、ステージは終了した。

朗読とギターのセッションは、「“八雲”にちなみ、8回は開催したい」という。今回はじめてヤマハ銀座スタジオでプレイした感想を聞くと、「余計な残響もなくとても使いやすい。生音でもいいんじゃないかな」(佐野さん)「内装も好き。重厚感があって落ち着く」(山本さん)との答えが返ってきた。

「今回は“化身・豹変”をテーマにしました。毎回テーマを変えて、少なくとも年に一度はこの場所でやっていきたいですね」(佐野さん)。新しいスタイルで音楽を表現し続ける2人のセッションに、今後も注目していきたい。

プロフィール

佐野史郎
島根県出身。1975年に劇団「シェイクスピア・シアター」の創立に参加し、俳優として活動開始。状況劇場を経て映画デビュー。正統派から狂気を宿した役柄まで幅広い演技の持ち主として知られる。自身のバンド「sanch」や写真展等、その活躍フィールドは広い。
山本恭司
島根県出身。1976年、ハードロックバンド「BOWWOW」のリードギター&ボーカルとしてデビュー。日本人離れしたギターテクニックと作曲センスで日本のロック界を牽引、海外での評価も高い。ギター・インストゥルメンタル・アルバムのリリースや矢沢永吉のツアー参加など、幅広く活躍する。
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