Ginza Music Concierge:Column
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アコーディオンに魅せられたトリオの熱い夜

数学者 秋山 仁、女優・歌手 由美かおる、アコーディオン奏者 桑山哲也

世界的数学者の秋山仁先生、デビュー当時から変わらぬ愛らしさを纏う女優の由美かおるさん、日本を代表するボタン・アコーディオン奏者の桑山哲也さん。この異色のトリオが、ヤマハ銀座スタジオでアコーディオンライブ「数楽芸 Vol.3」を行った。音楽と数学、アコーディオンと秋山先生。意外に見えるこの組み合わせ、実は双方が切っても切れない関係で結びついている。

「やれば、必ずできる」世界中の子どもに教えた自分の言葉に奮起

数学と音楽。まるで接点がなさそうに見えて、実は密接な関係にある。古代ギリシャ時代、数学者たちが周波数を研究していく中で音律が確立された。マラン・メルセンヌは12平均律を確立、「音響学の父」と呼ばれている。

「そういう意味では、数学者の僕はアーティストと呼ばれてもいいし、桑山くんは数学者と呼ばれてもいいと思うんです」とは秋山先生の弁。

秋山先生とアコーディオンの関係も深い。本格的にアコーディオン演奏に取り組んだのは55歳のとき。札幌の近郊で、哀愁を帯びた透明な音色でアコーディオンを弾いているおじさんに出逢い、弟子入りした。それほどその音色は美しく、衝撃だった。

実は秋山先生、音楽は得意でない。音痴で笑われた子どもの頃の苦い経験から、音楽には敵意すら持っていた。学生時代アコーディオンに憧れサークルの先生に指導を受けたが、長続きせず、挫折。それ以来、ずっと心残りだった。

北海道で再度アコーディオンの音色に触れた先生に、いつも自分が数学を教える中で世界中の子どもたちに繰り返し伝えているメッセージが思い浮かんだ。
「やれば、必ずできる」
この言葉を自分も実行しようと。それから北海道アコーディオン協会代表の久保達男先生に師事して約8年、1年前から由美さんに教えられるほど(?)の腕前へと上達した。

「恥ずかしきことの多い人生ですが、人生はたった一度きり。僕は生き恥をさらしてるようなものですが、やりたいことをやれないであの世には行きたくないので」

数楽芸とアコーディオンの饗宴

アコーディオンライブ「数楽芸 Vol.3」は、3人で演奏する『河は呼んでいる』からスタートした。牧歌調の美しい調べに乗せて、由美さんがアコーディオンを弾きながらフランス語で歌う。3人の息はぴったりで、歌声がアコーディオンの合奏に乗って会場中に快く響いていった。

続く「アコーディオン世界周遊旅行」コーナーでは、演奏者それぞれにゆかりのある国の楽曲をチョイス。フランス、アルゼンチン、イタリア、アメリカ、ブラジル、ロシア…。その国にまつわる思い出のエピソードで話が弾む、和やかで贅沢な企画だ。由美さんが若かりし頃のダンスシーンや桑山さんのライブ、秋山先生がロシアの子供たちに数学を教える場面など、演奏中に流れる映像も楽しい。

そして秋山先生による「数楽芸」が登場。これは秋山流・数学の極意を一般の人にもわかりやすく演出した数学理論の応用の紹介だ。今回取り上げたのは、傷つけた音楽CDの音飛び防止機能「エラーコレクティングコード」の実験と、それを基にした「音当てクイズ」。観客が1オクターブ12種類の中から選んだ音を、観客が嘘をついても、みごと言い当てた。

由美さんは美術にも長けていて、ご自身で描かれた油絵や水彩画、貼り絵などの作品をたくさん披露してくれた。

世界中の、あらゆるジャンルの音楽で活躍するアコーディオン

桑山さんのソロは、「圧巻」のひと言だ。『ラ・クンパルシータ』や『リベル・タンゴ』、オリジナル曲『哀愁のミュゼット』などの曲を、あるときは熱情をもって、またあるときは甘く囁くような優しい音色で聴かせてくれた。テクニックを遺憾なく発揮した演奏とその姿には凄みがあり、一瞬でも目をそらすのが惜しいほど。

また、日本では桑山さんしか奏者がいない「アコーディナ」(小型の吹奏式ボタンアコーディオン)も紹介し、アコーディナで演奏する『カルーソー』を披露。極めて切ない音色は、悲壮感さえ漂う旋律と相まって私たちに鮮烈な印象を残す。

アコーディオンは、日本では長らく歌謡曲の伴奏楽器としてのみ認識されていた。桑山さんはそのことに悩み、肩身の狭さを感じた時期があったという。しかし、活動の場を世界に広げると、そんな思いは一変した。

「カンツォーネ、サンバ、ジャズ、ロシア民謡…。アコーディオンはあらゆるジャンルの音楽で活躍していたんです。どの国でも対等に渡り合える楽器なんだ、そう胸を張れるようになりました」(桑山さん)

秋山先生によると、「アコーディオンを習い始める人々の目標は『ラ・クンパルシータ』を弾けるようになること」なのだとか。「僕も死ぬまでに弾けるようになりたいな」、そう先生がつぶやくと、桑山さんはすかさず「じゃあ僕がみなさんのために編曲しますよ」と返した。今回は桑山さんのソロで演奏で堪能できた『ラ・クンパルシータ』、トリオ演奏が聞ける日はそう遠くないのかもしれない。

演奏リスト

1) 河は呼んでいる
2) ラ・ガレリアン
3)パリの空の下
4)ラ・クンパルシータ
5)帰れソレントへ
6)テネシーワルツ
7)イパネマの娘
8)カチューシャ
9)哀愁のミュゼット
10)カルーソー
11)リベルタンゴ
12)百万本のバラ
13)ジャンバラヤ
─アンコール─
詩人の魂

プロフィール

秋山 仁
数学者。1946年、東京都生まれ。上智大学大学院数学科修了後、ミシガン大学数学客員研究員、米国AT&Tベル研究所科学コンサルタント、東京理科大学教授などを歴任。現在、東海大学教育開発研究所所長。専攻はグラフ理論、離散幾何学。専門誌に100編を超える論文を発表、啓発書、専門書など約100冊を執筆。NHK高校講座「数学基礎」の講師を担当する。
由美かおる
女優・歌手。京都府出身。中学生で『西野バレエ団』に入団後、歌手・女優として活躍。抜群のプロポーションと愛らしい風貌で人気を集める。映画、音楽番組、ドラマ、司会、ステージなど、国内外の幅広い場で活躍し、受賞多数。1986年より2010年までの長きにわたり「水戸黄門」にレギュラー出演した。
桑山哲也
アコーディオニスト。1972年、札幌生まれ。アコーディオン奏者の父のもと6歳からアコーディオンを始める。14歳でフランス屈指のアコーディオン奏者、故デデ・モンマルトル氏に弟子入り。同時にボタン・アコーディオンに転向。2000年からはソロ活動を開始、情感あふれる表現力と抜きん出たテクニックで多くのファンを獲得した。
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