Ginza Music Concierge:Artist Interview

Ginza Music Concierge

ピアニスト 三浦友理枝&エレクトーン奏者 渡辺睦樹:「チャイコフスキー ピアノ協奏曲 第1番」がヤマハホールに響きわたった日。

エレクトーンとピアノによるピアノ協奏曲への高い注目度

エレクトーンでのクラシック演奏を追究し続ける渡辺睦樹さん。1995年からのドイツ留学では、作曲理論と声楽伴奏を学んだ。歌手や楽器演奏者の呼吸を敏感に汲み取りながら音楽を創っていける、エレクトーン界の中でも希有な存在だ。

「一流のソリストと呼吸を合わせながらエレクトーンを駆使できるのが、渡辺さんのプレイヤーとしての強み。ソロ演奏も素晴らしいのですが、他の楽器とのコラボレーションで渡辺さんの新しい世界をぜひ作ってほしいと思いました」

2011年6月22日に銀座ヤマハホールで行われた「三浦友理枝&渡辺睦樹 ジョイント・コンサート」の成り立ちについて、ヤマハ音楽振興会の企画担当者は、こう語った。

ピアノとエレクトーンの組み合わせは、音大生によるリサイタルやJOC(ジュニア オリジナル コンサート:ヤマハ音楽教室で学ぶ15歳以下の子供たちによるオリジナル作品発表の場)において、さほど珍しくはない。しかし、既に世界の第一線で活躍するプロフェッショナルがリサイタルホールで、しかもコンチェルトを演奏するとなると、話は別だ。

「渡辺さんのエレクトーンと一緒なら、ぜひ」と、この企画に名のりを挙げたのが三浦友理枝さんだ。数多くの国際コンクールで優秀な成績を収めてきた三浦さんが、渡辺さんとの共演にと選んだのは、「チャイコフスキー/ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調」だった。

オーケストラとの共演でわかるエレクトーンならではの面白み

「333席のヤマハホールで響きの大きなコンチェルトを演奏する。その一見矛盾した感じがユニークかなと思って」と、三浦さんは笑う。室内管弦楽団とピアノとでモーツァルトを…という考えもあったが、せっかくならばとことん挑戦したいという気持ちが大きかった。

三浦さんの言う「挑戦」は2つある。ひとつは前述の通り、銀座ヤマハホールでエレクトーンと共にコンチェルトを演奏すること。ホールでの響きを調整し、身体に染み込ませ、経験としてカンを培うためだ。もうひとつは、三浦さんにとって初となる渡辺さんとの、そしてエレクトーンとのコラボレーション。アナログとデジタルという異質との組み合わせでホールの感触を探るのは、今回が初めてとなる。

渡辺さんとのアンサンブルでは、エレクトーンならではの表現に面白みを感じた、と三浦さんは言う。例えば、エレクトーンはひとりで演奏するからこそ、和音や拍はキッチリ決まる。逆にピチカートをわざとずらしたタイミングにプログラミングすることで、大人数からなるオーケストラのゆらぎを再現することもできる。

「つい最近本物のオーケストラと、チャイコフスキーのピアノ協奏曲 第1番を演奏しました。だからこそ、エレクトーンと合わせても変わらない点、逆に違う点が如実にわかるんです。渡辺さんと合わせる中、ひとりニヤつきながら弾いてしまいましたよ(笑)」


互いの世界を大切にした息の合ったコンチェルト

一方、渡辺さんは三浦さんと初めての共演にかかわらず、妙な安心感を持ったという。鍵は「子供の頃からヤマハ音楽教室で育ったこと」にあった。

「既に共通言語を持っている感じというのか…。例えばヤマハ音楽教室では習い初めに、拍をメトロノームに合わせる練習をするんですよね。三浦さんがおっしゃった『拍がキッチリ決まる』感覚、それは同じ鍵盤楽器であるのも大きいとは思いますが、演奏家としてのベースをヤマハ音楽教室で創ったことも無関係ではないと思うんです」(渡辺さん)

「わかります! アインザッツ(演奏の出だしのタイミングを揃えること)の取り方とか! ヤマハのグループレッスンではアンサンブルが基本で、子どもの頃からみんなで『せーの』って合わせてました。それが、どこのレッスンを見ても一緒なの(笑)」(三浦さん)

息の合ったふたりが迎えた、ヤマハホールでの公演。異色のコンチェルトに多くの注目が集まり、客席はすべて埋め尽くされていた。

渡辺さんのソロによる第1部の演奏が終わると、休憩を挟んで第2部がスタート。チャイコフスキー ピアノ協奏曲 第1番だ。有名なフレーズから始まる壮麗な序奏から、三浦さんは自由に生き生きと奏でているように見えた。それに応える、オーケストラに謙遜ない音の厚みと、躍動するピアノを支える繊細で柔らかいエレクトーンの音色。渡辺さんのアレンジャーとしての見事な手腕、そして『演奏者の呼吸を汲み取る』プレイヤーとしての真髄を見た思いがした。

三浦さんと渡辺さん、お互いの持ち味と個性を織り交ぜながらのピアノ&エレクトーンコンチェルト。最終楽章まで互いの世界を大切にしながら演奏し終えると、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。

一線で活躍するプロだからこそ感じられる演奏の可能性

「今回のような未知の領域での挑戦は、今後も続けていきたい」と三浦さんは語ってくれた。既に、音楽家だけでなく舞台俳優とのコラボレーションにも意欲的に参加している。言葉で紡いだ詩や物語が持つ空気感に合わせてピアノを奏でたり、逆に音楽で舞台の雰囲気を創り上げるのだ。
「いろいろな方と共演すると、知らなかったことを吸収できる。こうして経験を積み、自分のピアノ演奏に返していきたいですね」

渡辺さんも、近ごろ多様な楽器奏者とのアンサンブルが増えた。そうして取り組みたいと思えてきた課題がある。
「例えば弦楽器で弓を返すときの、音の緊張が高まる一瞬の感覚を、エレクトーンで表現することはできません。でもあの緊張感はすごく面白いからぜひ取り入れたい。弦楽器に限らず、人が歌う際のフレーズ、呼吸、テンポの取り方をより知ることで、エレクトーン用のアレンジ──ひいては演奏が変わっていくかもしれませんよね」

それぞれの楽器が持つ特有の奏法や呼吸感を、多くのプレイヤーと共演することで習得したい。そうすればレパートリーの幅が広がり、これまでの演奏も違った目で見られるかもしれないという期待感もある。「そういう意味では、ようやく演奏に幅が広がる段階に来たなと感じています」

世界の第一線で長年活躍しながらも、挑戦を繰り返し可能性を広げていく三浦さんと渡辺さん。エレクトーンとピアノによるチャイコフスキーのコンチェルトが投じた一石は、これからの2人の活動に、ひいてはクラシック表現全般に、大きな輪となって広がっていくのかもしれない。

プロフィール

三浦友理枝
東京生まれ。2005年に英国王立音楽院大学課程を首席で卒業。07年同音楽院・修士課程を首席で修了。01年「第47回マリア・カナルス国際音楽コンクール」ピアノ部門第1位、06年「第15回リーズ国際ピアノコンクール」特別賞を受賞。これまでに、東京フィル、読売日響、日本フィル、大阪フィル、大阪響、名古屋フィル、群馬響、広島響、九州響、仙台フィル、山形響、札幌響、シンフォニア・ヴァルソヴィア、カイロ響など国内外のオーケストラと共演。05年エイベックス・クラシックスよりCDデビュー。これまでにソロ・アルバム4点と、川久保賜紀、遠藤真理とのトリオのCDをリリース。
オフィシャルウェブサイト www.yuriemiura.com
渡辺睦樹
愛知県出身。5歳よりエレクトーンを始める。名古屋大学在学中に出場した「インターナショナルエレクトーンフェスティバル ’88」で最優秀賞受賞後、本格的な演奏活動を開始する。1995年、東京室内歌劇場公演オペラ「ヒロシマのオルフェ」演奏を担当、エレクトーン版オペラとして話題を呼んだ。 1995年、ハンブルク・コンセルヴァトリウム、ハンブルク音楽大学に留学。作曲理論、ピアノ、声楽伴奏を学ぶ。2002年のデビューアルバム『トロイメライ』ほか、5枚のアルバムを発表。エレクトーン界でのクラシック演奏第一人者として活躍中。
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