Ginza Music Concierge:Artist Interview

Ginza Music Concierge

バイオリニスト 中西俊博:自由奔放にバイオリンを操る奏者の、次なる目標

奔放で自由、しかし緻密なバイオリンの音

2011年9月8日の銀座ヤマハホール、「中西俊博Produce ソウル・オブ・ストリングス vol.2」。バイオリンを片手にステージや客席をところ狭しと歩き回りながら、中西俊博さんはこぼれんばかりの笑顔で演奏していた。弦を弓で弾き、指先ではじき、時にはウクレレのように持ちつま弾いて。私たちが持つバイオリン奏法の常識を越えた、奔放で自由なスタイル。しかしその音色には、確かな演奏技術の上に成り立つ緻密さを感じ取ることができる。

中西さんはバイオリンを弾いていた父の影響もあり、幼少の頃からピアノとバイオリンを習い始めた。

「僕は、子供の頃から『どうしてみんなと同じにできないの』といつも言われて育ったんです。遊び方にしろ考え方にしろ他の人とは違う発想が浮かんでくるし、それを実行するのが好きなんですよね」

そんな中西さんだからこそ、クラシックのイメージが強いバイオリンの、違うジャンルでのあり方や奏法を模索し始めたのは自然な流れだったと言える。例えば演奏フォーム。クラシックのバイオリンはよく「腰から固めて弾く」と言われるが、そのフォームではバンドメンバーへの合図がやりにくい。ジャズやポップスなど幅広いジャンルを手がける中西さんは、むしろ腰を自由に動かせるようにした方がいいという考えだ。

「自由に動ければ、演奏中にお客さんの表情を見られる。そこからいいインスピレーションを受けたいんです。それで僕が変化したのを見て、バンドのメンバーも変わったことを試してみたりする。僕らの演奏では、そういった即興性がほしくて。そう考えると、バイオリンを弾くフォームは曲ごとに変えなければならないと思うんですよね」

バイオリンでできる表現、演奏スタイル、取り組むジャンルと、中西さんはバイオリンが持つ新しい可能性を常に追求してきた。また、ピアノやパーカッション、ベースなどと共にバンドとして演奏する際には、とりわけアンサンブルやグルーヴ感を重視している。

弦楽器同士のおしゃべり。それを包むグルーヴ感

今回行われた「ソウル・オブ・ストリングス vol.2」は、二胡奏者であるチェン・ミンさんと初のコラボレーションだ。二胡にはかねてより興味を持っていたという中西さんだが、どういった点に惹かれたのだろうか。

「特に音の揺らぎ。バイオリンがどうがんばっても出せないし、人間の哀しさの表現は、バイオリンではかなわない。テクニック云々を飛び越えて、聴き手の心を直接つかんで揺さぶるような音ですから」

チェン・ミンさんは、中西さんが長年競演を熱望していたアーティストのひとりだ。彼女と共に演奏をしてみると、思った以上に「反応の良さ」を感じたという。

「楽譜通り、練習通りに弾くのではなく、僕のバイオリンやバンドのいまある音に対して敏感に反応してくれる。例えばリット(徐々にゆっくり演奏する)を多めに出すと、次の瞬間ものすごい緊張感を保ちながら間を取っていました。また楽しい曲は、カウントの取り方だけですごく楽しそうな雰囲気がこちらへも伝わってくるんです」

音の色合いの表現力が豊かな人。中西さんは、そうチェン・ミンさんを評した。実際ライブを体験すると、その言葉に何度も深くうなずかされることになった。『何日君再来』では、愛する人と過ごす時間のいとおしさ、次はいつ会えるとも知れない別離の哀しみが伝わってくる。『悲恋』では、絶望すら感じさせるやりきれなさが。一転して『競馬』は、馬のいななく声や疾走する様子などを表現。いずれも情景や躍動がありありと想像できる。

中西さんはそれぞれの曲想やアレンジ、チェン・ミンさんの醸す雰囲気に合わせ、バイオリンを自在に操っていた。まるで弦楽器同士で楽しそうにおしゃべりしているかのような掛け合いが、バンド全体のアンサンブルとして溶け込んでいく。そしてホール全体を包むグルーヴに大きく心が揺さぶられた、幸せな体験だった。

いまの自分だからこそ向き合えるクラシック

中西さんは1985年、28歳のときにデビューし、今年で26年目だ。いま、クラシックの演奏を「自分なりにがんばりたい気持ち」が芽生えてきているという。幼い頃から東京藝大を卒業するまでクラシックのバイオリンを勉強してきたが、ひたすら与えられた課題を消化しただけだったと感じているためだ。

「練習は練習としてあるのはもちろんのこと。しかし、弾くときは自分の『直感』を信じて弾かなければならないはずなんです。ポップスの演奏を始めたとき、その直感が養われていなかったことを痛感しました。原点に戻るというよりは、いまの自分だからできる、グルーヴ感を持たせたクラシックをとことん追究したい」

ポップスはクラシックよりも曲の構造がシンプルだからこそ、なおさら自分なりの弾き方でメロディに表現を込める必要がある。クラシックだって、伝統的な奏法以外にそういう考え方があっていいはずだ──。そう中西さんは考えている。

ところが実際にいまクラシックに取り組んでみると、子供の頃からし染み付いた「この曲はこう弾くべき」をどうしても意識してしまう自分に気がついた。

「この演奏はこんなに崩しちゃいけないんじゃないか、聴衆に嫌われるんじゃないか、そんな気持ちがどこかに残っているのがわかる。でもそんな葛藤を経て、クラシックの楽曲を演奏する中に『自分の色』が残っていくのかもしれませんね」

演奏リスト

1. 星に願いを〜トンボ7/8〜Cooley's Reel
2. A Touch of Breeze
3. At The Corner
4. Rain Dance
5. Premiere
6. Rodeo Reel
7. ノルウェーの森
8. 何日君再来(w/チェン・ミン)
9. 悲恋(w/チェン・ミン)
10. 競馬(w/チェン・ミン)
11. チャールダーシュ
12. Rockin' In Rhythm
13. Libertango
14. Reel Around The Sun〜American Wake
─アンコール─
15. 旅人(w/チェン・ミン)
16. Stardust

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