<出演者からのメッセージ>私は、メシアンの音楽へのアプローチは、作品が神への捧げ物であるという点で、本質的にはバッハのそれと同じであると考えています。また、この作品はピアノ音楽の書法で書かれた「マタイ受難曲」である、とさえ言えるのではないかと思っています。この作品は、「全体」が単に「部分」の合計ではなく、それ以上の何かを形作っている希有な作品のひとつです。そしてこの作品は、長大でありながら、完全な...
<出演者からのメッセージ>
私は、メシアンの音楽へのアプローチは、作品が神への捧げ物であるという点で、本質的にはバッハのそれと同じであると考えています。また、この作品はピアノ音楽の書法で書かれた「マタイ受難曲」である、とさえ言えるのではないかと思っています。
この作品は、「全体」が単に「部分」の合計ではなく、それ以上の何かを形作っている希有な作品のひとつです。そしてこの作品は、長大でありながら、完全な調和を持っています。
まさに特筆すべき偉業がここに達成されています。
・・・あらゆるピアノ作品の中で、私が最も深く愛してやまないこの曲を、東京で演奏出来ることを心から楽しみにしています。
スティーヴン・オズボーン
<推薦メッセージ>
オリヴィエ・メシアンの「幼子イエスに注ぐ20のまなざし」を聴くために
フランス音楽史上、重要な作品の一つが、メシアンの「幼子イエスに注ぐ20のまなざし」である。フランスの作曲家は、始祖ラモー、古典派からロマン派を代表するベルリオーズ、近代音楽の申し子ドビュッシー、そして20世紀のメシアンという主な潮流があり、彼らには共通点がみられる。みな、鳥の声や風の音などをモティーフにしていて、それぞれ次の世代の音楽に影響を与えるほどの、魅力的な作曲法の創始者である。
この中で、メシアンの音楽を聴くことは、21世紀を生きる私たちにとってはとても身近なことで、ドビュッシーを聴くことと同じ感覚なはず。
メシアン未体験の方には、この機会にメシアン・デビューを是非お薦めしたい。
聴くためのキー・ポイントは、メシアンの音楽語法を形作る3つの要素。
一つめは、独特の音響。メシアンは、音を聴くと色彩が見えるという“共感覚”を持っていた。そして、自らの音感を表現するために、あるルールに則って音階・音列を創り、それを基に作曲した。二つめは、独自のリズム。メシアンは、インド固有の“デシターラ”のリズムとギリシャの韻律法によるリズムからの影響を大きく受けて、それらを自分流にアレンジして作曲に採り入れている。三つめは、メシアンが鳥類学者であること。鳥の鳴き声に惹かれて書き取ってゆくうちに、その生態まで探求したという強者である。
つまり、聴こえてくる色とりどりの音響に身を委ねて、通常のクラシックのリズム法との差異を肌で感じ、ときおり聞こえる鳥の声に耳を傾ければ、敬虔なカトリック・クリスチャンのメシアンが、キリストの誕生へのまなざしを多角的に描いた“愛に満ちた極上の音楽”を気負わずに享受できること請け合いである。
スコットランド生れで、イギリス音楽界を代表する名手オズボーンは、誠実で人間味溢れる演奏で知られる。きっとメシアンのこころの中を、その堅実なテクニックで丁寧に表現してくれるに違いない。
メシアン初心者も、メシアン通であっても、これを聴き逃す手はない。
野平多美・音楽評論家